【読書と音楽】『さよならジャバウォック』(伊坂幸太郎 著)

【読書と音楽】『さよならジャバウォック』(伊坂幸太郎 著)

こんにちは編集スタッフのQです。

村上春樹さんの熱狂的ファンの「ハルキニスト」なんてのは有名ですが、発刊されると、何があっても手にとってしまう。そんな小説家、作家ってみなさんにはいるでしょうか?
私は比較的、作家で読むタイプなんで、同じ方の作品を読み続けるってのが多いんですが、なかでも発売日の数日前、いや発刊が告知されてからの数ヶ月前からソワソワし、発行日前日には「フライングで置いてないかな」と書店を回って物色してしまうのが、伊坂幸太郎さんです。

軽妙洒脱な会話、計算された伏線回収など、伊坂作品の面白さにはいろんな側面がありますが、私なりにあえて一つ挙げるとすると「没入感が半端ない」ってことですかね。最初の一行読んで、すぐに引き込まれるように物語の中に入っていってしまう。だから伊坂作品って、毎回たいてい2日もあると読み終わっちゃうんです。途中で辞められない、っていうんですか。その意味ではすごいコスパが悪いんです。あ、これ褒め言葉と受け取ってくださいね。

そんな伊坂さんの作品群の多くには、音楽が密接に絡んだものが多いのも一つの特徴です。デビュー作『オーデュポンの祈り」では<ミュージック>が最後に重要な鍵を握るものとして登場しますし、代表作として挙げられることの多い「ゴールデンスランバー」は、まさにビートルズの楽曲がタイトルの由来。「フィッシュストーリー」はメジャーデビューしたけれど鳴かず飛ばずのロックバンドが最後にレコーディングした楽曲にある謎の無音箇所が「地球を救っちゃう」話ですね。(このほか、まだまだたくさんあります)

今回ご紹介する「さよならジャバウォック」(双葉社)は伊坂さんの作家デビュー25周年となる書き下ろし作品ですが、本作でも音楽が物語上、ものすごい重要な役割を担います。いわゆるミステリー作品ですから、何を言ってもネタバレになってしまうかもなので、あえて大雑把にご紹介すると、ジャバウォックという人間に寄生する物質(?)が存在し、それに寄生されることで、制御不能となった人はむき出しの本性(攻撃性)をあらわにする。その攻撃性を覚醒させるのがある楽曲ということ。

で、その曲というのが、

ギターの空気を断ち切るような音で始まり、
ジャ、ジャ、ジャ、と迫力ある音が鳴った後、
ドン、ドン、ドン、とドラムが続き
そしてカモン、カモンという歌声が響く

というわけですが、さてこの曲はなんなのか(本書にはその答え合わせはありません)。「多分あの曲だよね、そうだよね」なんてことを考えながら読むのも楽しいかもしれません。ちなみに私は、読後にすぐにネット検索し、読者さんのレヴューを参考にサブスクで聴いてみて、「ああ確かにこの曲かも」という、非常に安直な方法を選択しちゃいました。

25周年を飾る伊坂ミステリー。探偵が謎解きするわけでもなく、最後に犯人が見つかるわけでもないのですが、終盤のクライマックスに「ああ、そういうこと」「だからあそこで、こうだったのね」という巧みな伏線回収の驚きと、私自身は、一見ハッピーに見える結末に、「あれ、これってハッピーなのかな?、この後。。。」という微妙な心の揺れに襲われたんですね。

伊坂さんを好きな方なら、こう言うと分かってくれるでしょうか。
「重力ピエロ」読んだ後みたいな感じ?