フットボールの情熱と歌声のチカラ

フットボールの情熱と歌声のチカラ

2025年も早いもので残り一ヶ月です。来年26年はというと、個人的にはなんといってもFIFAワールドカップ。この記事が公開される頃にはグループステージの組み合わせ抽選会が開催され日本代表の対戦相手も決まります。前回カタール大会でのドイツに逆転勝利、スペインを撃破したあの「三苫の1ミリ」からもう4年経とうとしてるなんて、なんか早いですね。(実際、前回大会が特例で冬開催だったから、実質3年半くらいなわけで、事実早いんですけれど)

2026年FIFAワールドカップはアメリカ、カナダ、メキシコでの初の3カ国開催で、この大会から参加国が従来の32から48に拡大されます。今まではグループステージを勝ち抜けたらベスト16だったのが今回からはベスト32。日本代表はこれまでベスト16の壁が破れずにいたんですが、ベスト32で強豪国と当たる可能性を考えると、ハードルはちょっと高くなったのかなという気がしないでもないですね。しかし、そこは先日ブラジルにも勝った日本代表ですから、期待して応援しましょう!

さて、Jリーグはもちろん海外の中継を見てもわかるように、フットボールの試合では常にスタジアムに応援の歌が響きます。数多のスポーツがある中、こんなに音楽との親和性が高いスポーツっておそらくフットボール以外にないんじゃないでしょうか?

有名なところではジュゼッペ・ベルディのオペラ<アイーダ>の凱旋行進曲、エドワード・エルガーの<威風堂々>などは世界中の多くのクラブのサポーターが歌ってますし、ロックやポップスからもロッド・スチュワートの<Sailing>、UKのバンド、スレイドの<Cum On Feel the Noize>、アメリカのヘビメタバンド、ツイステッド・シスターズの<Not gonna take it>などは、Jでも海外の試合でも耳にすることがありますね。

そんないろんな曲が歌われるなか、「じゃあ最も有名なサポートソングは何?」と問われたら、フットボールファンの多くがこう答えるでしょう。

「リヴァプールのサポーターが歌うYou’ll Never Walk Alone」

元々は1945年に発表されたミュージカル「回転木馬」の劇中歌で、後にシナトラやプレスリーなども歌ったこの曲を、ビートルズと同時期に活躍したリヴァプールのバンド、ジェリー&ザ・ペースメーカーズがカバーし1963年10月に4週連続で全英1位を獲得。地元のバンドということと、その歌詞「You’ll Never Walk Alone(君はけっしてひとりじゃない)」がクラブに寄り添う気持ちにフィットすることから、リヴァプールサポーターのアンセムになり、今ではクラブのエンブレムにもこの言葉が記されているほど。リヴァプールといえば<ユルネバ>はフットボールの世界での常識となっています。

この曲はリヴァプール以外にも中村俊輔が在籍していたスコットランドのセルティック、香川真司のいたドイツのボルシア・ドルトムントなど、世界の多くのクラブでも歌われています(ちなみに日本ではFC東京も)が、本家はあくまでもリヴァプール。本拠地アンフィールドではサビの部分になると音がミュートされ、スタジアム全体で圧巻の大合唱が始まります。多分、生で聞いたら鳥肌立つんじゃないかなと思いますね。

そんなこの曲を、さらに有名にしたのが「イスタンブールの奇跡」と呼ばれる、UEFAチャンピオンズリーグ2004-05の決勝戦ではないでしょうか。2005年5月25日、イスタンブールで行われたファイナルに駒を進めたのはリヴァプールとイタリアのACミラン。前評判はミラン優勢と言われ、キックオフ直後の1分にミランが先制。その後、前半終了間際の39分、44分にもミランが得点し、前半終了時点でまさかの3-0。もはや勝敗は決まり、リヴァプールサポーターのなかにも半ば諦めムードが漂うなか。ハーフタイムに一部のサポーターが<You’ll Never Walk Alone>を歌い始めます。

Walk on walk on(歩き続けよう)
With hope in your heart(希望を胸に)
And you’ll never walk alone(君はけっしてひとりじゃないから)
 You’ll never walk alone(君はけっしてひとりじゃないんだ)

すると瞬く間にその歌はスタジアムに伝播して大合唱へ。

「俺たちは諦めてない」。そんなサポーターの熱に後押しされたリヴァプールは54分、56分、60分とわずか6分間で3点を叩き込み同点に追いつき延長戦へ、そしてPK戦を制して大逆転勝利を飾ります。

この試合でリヴァプールのGKとして出場していたイェジー・デュデクは、今年、来日した際、その時の気持ちをインタビューでこんなふうに話しています。

「あの瞬間、まさに私たちは『一人ではない』と思いましたし、みんなで一つになろうと決意しました。サポーターが歌ってくれたあの歌が、私たちにとってのターニングポイントになったことは間違いありません」

サポートの声は選手に絶対に伝わる。そう信じてサポーターは最後まで声を振り絞るんですよね。普段は地元の赤いクラブを応援している編集スタッフのQでした。