湯河原から世界のギターメーカーへ(木越ギター)

木越貴之さん

 【インタビュー】PART-1 「木越のヘッドレスギターは矢堀孝一氏のアイデアから始まった」

お話:木越貴之さん(木越ギター代表)
聞き手:江尻大作(プログラマー/facebook・ジャズギター研究会 会長)

江尻: 来ちゃいました(笑)

木越: ようこそ湯河原へ(笑)

江尻: どもども。
木越さんのギター、作るそばから売れていくっていう状況だそうで、まさに嬉しい悲鳴ですね?

木越: まぁそうなんですが、つまりは常に在庫が無い状態でして、お客様にはご迷惑をかけてしまっていて…。

江尻: なるほど。。。
ところで、今日は新しいヘッドレスギターの開発秘話を伺えればと思ってお邪魔したんですよ。

木越: はいはい。ヘッドレスね。
あれ、元々はですね、ギタリストの矢堀孝一さん(※1)から「ヘッドレスを作ってみてはどうか」という提案がありましてね。
僕は最初は作る気はなかったんですけど、矢堀さんがとても熱心に、形状のデザインとかラフスケッチを送ってきてくださったんで、じゃあ作ってみましょうかということで作り始めたのが発端なんです。
で、矢堀さんのデザインをもとに、僕の方で型を作っていって、今のこの形になってるんですよ。

江尻: なるほど。ちなみに結構、矢堀さんの当初のデザインが残ってるんですか?

木越: いえ、ほとんど残ってはないです (笑)。

江尻: そうなんですね、で、当初は作るつもりがなかったということですけど、それは何故だったんですか?

木越: 単的に言ってしまうと、需要があるのか疑問だったのと、うち(木越ギター)には既に、「KT」というテレキャスターシェイプのセミホロウギター(※2)があって、 売れ行きも良かったので、あえて新型を作る必要はないかなと。
つまり矢堀孝一さんの熱意にほだされて、、、という感じですね。

江尻: 多数のギタリストから支持を集める「KTシリーズ」という、ある意味、完成形があったわけですもんね?
ちなみに「ヘッドレス」に着手する際に、別のものになってしまうという危惧はあったんですか?

木越: いや、それはないですね。音作りというのは木材によりますから。
確かにメイン機種は構造も違うし、形状も違うし、音も違うんだけれども。
コンセプト的な部分で言ったら、やっぱりクリーン(※3)が使えて、で、クリーンが使えるということは、歪みも使えるということですから。
大前提として、クリーンが芯があってまろやかで抜けてこないと、どうしてもドンシャリ、またはペチペチの音になって、それを歪ませても、その傾向は非常に強くなるわけですよね。

江尻: (その傾向が)残っちゃう?

木越: ええ、残っちゃうわけですよ。どうしても芯のない音になる。
例えば、低音域で弾いて良い音でも、上の方の音域で弾いた時にペチャペチャな音になるギターって相当多いんですよね。
それが、うちの場合はないですよと。
その作り方は熟知しているので、大きな懸念みたいなものがなかった。

江尻: ヘッドがないとか、ボディのある部分がないとか、ザクレてるとか、そこは、違う点ではあるけれども、足かせになるようなことではない、と?

木越: それは全く足かせにはなりません。

江尻: それは作る前から分かってたことなんですか?

木越: はい。

江尻: すごいな。

木越: ヘッドがないと言いつつも、これだけ(以下写真参照)残しているわけですよ。

江尻: 確かに。そこはやっぱり理由がある?

木越: 理由があります。角度をつけたかったし、この部分に木材を残したかった。
ここがボリュート(※4)みたいに厚くなってるんですよ。

江尻: なるほどね。普通のよくあるヘッドレスって、そこがツルンとしてますよね?

木越: ツルンとしてちゃダメ。

江尻: ダメなんですね?

木越: ダメだと思う。

江尻: それは言ってもいいことなんですか?

木越: そういうのは言ってもいいです。

江尻: まあ、一目瞭然ですもんね。じゃああとでここ、写真撮って貰いますね。なるほどね。

木越:    形とジグが決まれば、あとは作るだけなんで。
木材の響きと兼ね合いを鑑みて組み上げていくだけですから。

江尻: なるほど。

木越: 音の概念っていうのは、もう頭の中にできていて、それに対して、この木材が適当だなっていうのはあるので、それで作り上げていくだけの話ではありますから。

江尻: なるほど。本当に違う作り方なんだけど、木越さんの理想の音っていうのは、どっちから行っても狙える?

木越: 狙えますね。

江尻: 素晴らしいですね!

木越: 例えば、ストラトの形をしている場合、ボルト・オン(※5)であろうが、セットネックであろうが、それはコントロールはいかようにでもできますから。

江尻: 木越さんのギターはセットネックが多いですよね?

木越: セットネックが主流なんですけど、こちらの場合はボルト・オンなんです。

江尻: 本当ですね。じゃあ、それが決定的な要素ではない?

木越: 決定的な何かではないです。いかようにでも。

江尻: 面白い、そういうものなんですね?
KTシリーズもヘッドレスも、共通する部分があるわけですね?

木越: ええ、ありますね。それはちょっと言えないんですけど。

江尻: もちろん、もちろん。

木越: ヒップショット(※6)っていう、ヘッドレスギターのパーツがあって、最初はブリッジとヘッドピースの部分にそれを使ってたんですけど、プレイヤビリティ的に不親切。コスト面でも、流通や供給面でも不安があったので矢堀孝一さんにご紹介いただいた富山の彼谷工機というところで、オリジナルパーツとして作っていただいて、それを載せてますね。
これの長所っていうのは、もう弦の交換がしやすい。
それからチューニングが、非常に軽くてやりやすい。
また、彼谷工機さんも、ヘッドレスギターに非常に興味があったのも良かった。

江尻: ヒップショットは、回す時もすごく硬かったとか?

木越: 硬い。

江尻: 指が痛くなるし。

木越: 指が痛くなるし、ちゃんとしたピッチが取れない。

江尻: あ、なるほど。微妙な距離を回せないから。

木越: そうです。

江尻: 回してみていいですか?

木越: どうぞ。

江尻: 本当だ、柔らかい!

木越: ベアリングが入ってるんで。

江尻: そうなんですね。それもその彼谷さんが?

木越: そうです。全部彼のアイディアから開発してて。
これは単品でも売っていて、これが広まったら、ヘッドレスギターの市場がもっと大きくなるんじゃないかなと思います。

木越: 実際にヘッドレスを作って見て、いわゆるヘッド有りのギターと 何が違うかっていうと、何も違わなかった。

江尻: 面白いですね。何かが違うだろうなと思ってたことはあるんですか?

木越: 多少なりともヘッドの響きがなくなるんで、その分は少し変わってくるかなと思ったんだけども。
でも、ネック8割って僕はいつも思ってるので、ネックをちゃんと作れば、それは解決できるだろうなと思ってました。

江尻: なるほど。じゃあ、この辺のボディの形っていうのは?

木越: それも音的な部分で意味はあるんです。

江尻: あるんですね?

木越: ええ。 例えば、テレキャスターシェイプ、レスポールシェイプ、ストラトシェイプ、それぞれ形によってアッセンブリーが同じでも音が違うのと同じように、共振周波数帯が違ってくるので。

江尻: なるほど。

木越: その中でいかに音の芯があって、抜けて、なおかつ「モケない」。

江尻: モケない??

木越: っていう三要素、いわゆる「使えるクリーン」の。
それをやるためにどういうふうにすればいいかっていうのは、だいたい分かっているので。
ストラトの場合だと、吸われていく 割と。
音が吸われていく、振動が吸われていく。

江尻: ボディに?

木越: ボディに。

江尻: だから、「あの音」なんですね?

木越: ええ。「あの音」になってくる。
もちろん、ピックアップの影響もあるけど。

江尻: はい。モケる、モケないって、僕いまいち言葉のニュアンスがわかっていないんですけど。。。

木越: モケるっていうのは、いわゆる低音弦でも、中域でも、高域でも、アタックがホワンとした音。

江尻: それをモケるって言うんですね?

木越: はい。要するに、音像がはっきりしないってことですよね。
音像がはっきりしなくて、アタックのピークが遅く出てくると、プレイヤーとしては、弾いていると、音がどうしても遅れてくる。

江尻: そういうギター。。。例えば、どういうギターだろう?

木越: それは言えない (笑)

江尻: わかりました。

※1:矢堀孝一
日本のジャズギターの重鎮。Fragile、うらがえる、ソロ名義などで数多くの作品をリリース。
東京・赤坂のジャズクラブ Virtuoso Akasaka(ヴァーチュオーゾ赤坂)を運営している。

※2:セミホロウギター
ボディが空洞である部分と木材が詰まっている部分が混在しているエレキギター

※3:クリーン
ギターのサウンドが歪んでいない、クリアで自然な状態の音

※4:ボリュート
ネックとヘッドの境目(裏側)にある盛り上がった部分。強度が増し、音色に影響する。

※5:ボルト・オン
ボディとネックをネジで接続する方式のこと

※6:ヒップショット
ギターやベースのアクセサリーやハードウェアを手掛けるアメリカのメーカー。
ヘッドレスギター用のアクセサリーも製造。


木越ギター

2011年創業。抜けが良く、太くまろやかなクリーントーンに定評のある、神奈川県湯河原のギターメーカー。
経験とセンスに裏打ちされた、独自の「音を聴きながら削る」工法で製作された楽器は多くのギタリストの支持を得ている。

website : https://www.kigoshi-guitar.com/

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